妄想だけど、母に電話をしてみます。
「もしもし?」
「はいはい?Hちゃんかい?いま大学?」
「いやいや、今日は大学行ってないよ」
「あらそう。身体休めたかい?」
「うーん? まぁ、1日中寝てたかな」
「あら良かったね。1週間に1回くらいドテッとして休まないと身体持たないからね」
「1日中、布団の中で泣いてたわ」
「あらなんでさ」
「だってお母さんいないんだもん」
「なーん。ダメでしょ、そんなんじゃ。ちゃんとご飯食べたのかい?」
「ご飯は食べたよ」
「そう?何食べた?」
「鶏肉茹でて食べた」
「そう。鶏肉はたんぱく質が取れるからいいね。野菜は食べたかい?」
「うん。千切りのキャベツ食べた。あと茹で汁でわかめスープ作った」
「あらいいね。わかめは食物繊維が取れるからね」
「でも昨日は夕飯食べずに寝ちゃった」
「えー。じゃあお腹空いたしょ?」
「いやぁ別に。なんか食欲なくて」
「ダメだねぇ」
「朝、体重測ったらまた1kg減ってたわ」
「あらら。ちゃんと健康的にやせないとダメだよ」
「なんかお母さんいないからさ。寂しくて、昨日は6時ごろ体がガクガク震えちゃって、起きてられなくてさ」
「なーんもう、だめだめだめ、そんなんじゃ。お母さんいつもそばにいるって言ったしょ」
「そばにいるって、そっち帰ってもいないんだもん」
「しょうがないしょ、かみさまにあなたはこっちに来なさいって言われちゃったんだから」
「そんなこと言ったって、お母さんいないとだめなのわかるでしょ」
「なーに言ってんの。あんたはもうちゃんと仕事も持ってるんだし、大丈夫だー」
「仕事のこと言ってないよ、お母さん、いないと寂しいよ」
「お母さんだって寂しいよ。Hにもうご飯作ってあげられないし、玄関に出て行ってドア開けてあげることもできないしねぇ」
「お母さんにもっと色々してあげたかったのに」
「なーに言ってんの。いっぱい色々してくれたしょ。今回もねぇ。毎週毎週、私のために帰ってきてくれてさ。Hが元気の出る言葉いっぱいかけてくれたよ」
「だけど、お母さんをこんなに早くそっちに逝かせてしまった…」
「そんなことないよ。Hがいっぱい私のことしてくれたしょ」
「だって女性の平均寿命87歳だよ。早すぎるよ」
「そうだねぇ。母さんより早くこっちきちゃったからねぇ。母さんとはなんか話したかい?」
「話したよ。お母さんがいなくなる1週間前のことから全部細かく話したよ。おばあちゃんが産んでくれたお母さんは、Hにとって最高のお母さんでしたって。そしたらおばあちゃん泣いてたよ。代わってあげたいって」
「そうかい…。母さんもね、父さん亡くなって寂しいけどあの歳まで頑張って生きてたら、私の方が先に逝っちゃうんだから、申し訳ない…」
「そうだよー。人生100年時代って言ってるのに、まだ71じゃない」
「あんなもん、政治家の宣伝文句さ。国民に年金渡したくないから働けって言ってるだけだー」
「そうかねぇ。だって、この前退職した先生だって、お母さんまだ生きてるって言ってたよ?」
「人は人だー」
「でも、平均寿命87なんだからもっと長生きして欲しかったよ」
「そりゃお母さんだって、まだまだお父ちゃんの世話もしなくちゃいけなかったし、こっち来たら見たいテレビも見れないしねぇ」
「草もちだって684年分食べれるよって言ったのに。なんで3年分も貰わないで逝っちゃうの」
「アハハハ。だからそんなに生きたら大変だわ。Hちゃんといると楽しいわー」
「お供えしたら食べれるの?」
「食べれるよー。私のために祀ってくれたんだって気持ちでお腹がいっぱいになるんだー」
「ちゃんと味するの?」
「するよー。これは誰々が祀ってくれたんだ、って味がするんだー」
「なんかわからんけど、お母さんのいない人生に生き甲斐がないんだ」
「なーに言ってんの。親は親だ」
「何もやる気でないし」
「そんな私のことで人生台無しにしたらダメだぁ。せっかく准教授までなってるんだから。まぁいつでも電話しなさい。おかあちゃん暇だから」
「うん。また出てよ。絶対だよ」
「もう、甘えちゃって。じゃあ切るよ。ちゃんと寝るんだよ」
「今日1日中寝てたからなぁ」
「そっか。まぁ正月くらい好きなことでもしなさい」
「うん…」
「あったかくしてね、風邪引くんでないよ」
「うん…お母さんもね」
「はいはい。ありがとね。じゃあねーおやすみー」