34日目•昼2

電車の中でもガンガン泣きます。

 

母の部屋の本棚から、使い切ったティッシュの箱が出てきました。

 

そこには、こんな文字が書かれていました。

 

「29才の私を0さいのHが支えてくれた」

「30才の私を1さいのHが支えてくれた」

 

母は、私のことをメモするとき、Hと書きます。

名前が「ひ」から始まるから。

 

29才のお母さんを0さいだった僕は支えていたのか…。

 

何も記憶にない。ただ、泣いて、おむつ変えてもらって、話しかけてもらって、笑ったりもしたのかな。

 

僕のことを生き甲斐にしてくれてたんだ。

 

何でそんなこと、ティッシュの箱に書いたんだろう。

 

なんとなく思いついて、近くにあった箱に書いたんだろうけど、その時、何があったの?

 

どうしてそんなこと急に書こうと思ったの?

 

会えなくて、寂しくて書いたんじゃないの?

 

俺は、母さんを置いてその時なにをしていたんだ?

 

42さいのHは、71歳の母のおむつを変えたよ。

抱きかかえてトイレに行くのも難しくなった。

おむつもさ、お腹に水がたまって膨れて脱ぎにくくなるんだよ。

だから、おむつ、切ってくれ、って言われて。

母親のおむつって言ったって、パンツだよ。

俺は切るのか。そして脱がすのか。履かせるのか。

なるべく見ないようにしてやったけどさ、

もう衝撃で、心は麻痺したよ。

 

とりあえず、母の言葉、そっくりそのまま、全部返すよ。

 

「0さいの私を29歳の母が支えてくれた」

「1さいの私を30歳の母が支えてくれた」

「2さいの私を31歳の母が支えてくれた」

「3さいの私を32歳の母が支えてくれた」

「4さいの私を33歳の母が支えてくれた」

「5さいの私を34歳の母が支えてくれた」

「6さいの私を35歳の母が支えてくれた」

「7さいの私を36歳の母が支えてくれた」

「8さいの私を37歳の母が支えてくれた」

「9さいの私を38歳の母が支えてくれた」

「10さいの私を39歳の母が支えてくれた」

「11さいの私を40歳の母が支えてくれた」

「12さいの私を41歳の母が支えてくれた」

「13さいの私を42歳の母が支えてくれた」

「14さいの私を43歳の母が支えてくれた」

「15さいの私を44歳の母が支えてくれた」

「16さいの私を45歳の母が支えてくれた」

「17さいの私を46歳の母が支えてくれた」

「18さいの私を47歳の母が支えてくれた」

「19さいの私を48歳の母が支えてくれた」

「20さいの私を49歳の母が支えてくれた」

「21さいの私を50歳の母が支えてくれた」

「22さいの私を51歳の母が支えてくれた」

「23さいの私を52歳の母が支えてくれた」

「24さいの私を53歳の母が支えてくれた」

「25さいの私を54歳の母が支えてくれた」

「26さいの私を55歳の母が支えてくれた」

「27さいの私を56歳の母が支えてくれた」

「28さいの私を57歳の母が支えてくれた」

「29さいの私を58歳の母が支えてくれた」

「30さいの私を59歳の母が支えてくれた」

「31さいの私を60歳の母が支えてくれた」

「32さいの私を61歳の母が支えてくれた」

「33さいの私を62歳の母が支えてくれた」

「34さいの私を63歳の母が支えてくれた」

「35さいの私を64歳の母が支えてくれた」

「36さいの私を65歳の母が支えてくれた」

「37さいの私を66歳の母が支えてくれた」

「38さいの私を67歳の母が支えてくれた」

「39さいの私を68歳の母が支えてくれた」

「40さいの私を69歳の母が支えてくれた」

「41さいの私を70歳の母が支えてくれた」

「42さいの私を71歳の母が支えてくれた」

 

終わり。終わってしまった。

悲しくなるかと思ったけれど、ひとつひとつ時間をかけて打ち込んだら、圧倒されてしまいました。

すごいな、お母さん。

 

こんなに長い間、支えてもらったのに、僕は泣いてばかりいるのか。

これでいいなんてないからさ。また悲しくなると思うけれど、生きるしかないのか。