35日目・昼6

胸が…苦しい…。

 

お母さんは、他の人の痛みを共感できる人だった。

 

僕の人生でこれまでいくつかの死別があった。

その度に、お母さんは会ったこともない人の死を一緒に悲しんでくれた。

テレビを見て、病気の人を見て泣いている時もあった。

他人の苦しみを自分のことのように感じて泣いてくれる人だった。

 

それだけじゃない。他人の喜びを自分ことのように喜んでた。

 

テレビを見て、大笑いしてたし、バレーもサッカーもテレビなのにめちゃくちゃ応援してた。

 

お母さんそれさ、もっとずっとやってて欲しかったよ。

 

もう思い出すことしかできないなんて。あんまりだ。ひどすぎる。早すぎる。

 

定年退職後を老後とするなら、6年で終わっちゃったじゃないか。

そのうち3年以上コロナだし、妹の交通事故の世話だし。

 

全然、お母さんの楽しい人生、味わえなかったじゃない。

 

「私は引き出しがたくさんあるから」

 

そう言って色んなこと楽しんでたけど。

 

電話するといつも元気に電話に出てくれたけど。

 

お母さんのマスクいっぱい届いたよ。マスク買えなかったとき。

手作りのマスク。裁縫、得意だったから。

洗って何度も使ったからさ、使ってないのもまだあるよ。

 

歌にあるアレじゃん。

母さんが夜なべをしてマスクを作ってくれた。

 

なんでだよ。なんで死ななくちゃいけないのさ。

 

おかしいよ。神も仏もない。世界は終わってしまったよ。

 

大好きな、お母さん。お母さんだけはやめて。つらすぎる。

 

なんで、なんで、なんで、長生きさせてもらえなかったんだ。

 

お母さん、こう言ってたよね。

 

「毎日、家族の幸せを祈ってる」って。

 

自分のことちゃんと大事にしてたのかな。

 

僕は毎年祈ってたよ。神社に行ったらさ。「お母さんが健康でありますように」って。

 

去年大吉だったじゃん。それなのにお母さん、死んじゃったよ。

 

声が聞きたい。いっぱい話して。なんでも話して。

 

お母さんの話を聞くの大好きだったから。永遠に聞いていられるのに。

 

この先、苦しいことがあったら、乗り越えられるかわからない。

 

お母さんからのパワー、もらえなかったら、だめだ。

 

負けちゃう。人生、負けちゃう。心が癒えない。安らぎがない。

 

生きていて欲しかった。ずっとずっと元気でいて欲しかった。