57日目・夜

「もしもし?」

「はいはーい。いまどこー?」

「もう家だけどそれどころじゃなくてお母さん好きすぎてだめだ!!!」

「なーにもう、誰かいい人見つけなさい」

「そんなもん無理お母さんじゃなきゃやだ」

「ちょっと落ち着きなさい」

「だって、お母さんいないとかなんでこんなことになってんのか、わけがわからないよ。

これだけは、ホントにもうこれだけはやめて欲しいのに何してくれてんだって感じだわ」

「神様はね、乗り越えられない試練は与えないって言うよ」

「こんなひどい試練を与えて楽しんでる神なんて最低だ」

「まぁねー。そう興奮しなさんな。ほれ、ご飯食べたのかい?」

「食べたよ」

「何食べた? 焼肉」

「あれ、この前も焼肉してたでしょ、肉は1週間に1回でいいんだ」

「この前の残りがあったから焼いちゃったの、ちゃんと野菜とししゃもも一緒に焼いたから」

「油物も良くないからねー」

「そういえば、月曜日から喉が痛い」

「あら大変」

「今朝は声が出なかった。明日は授業3つもあるのに声が出ないのは大変そう」

「あらぁ、ちょっとごめんなさいって言って、ここ読んでくださいとかしたらいいんじゃないの?」

「そういうわけにはいかないんだ、書きながらしゃべらないといけないから」

「それじゃあお母さん心配だわ。土日はゆっくり休まないとね」

「うん…。そんなのはなんとかするけどさ、お母さんに会えないのはもう気が狂いそうだよ」

「ねー、⚪︎⚪︎ちゃんはちょっと時間かかっちゃうわね」

「お母さんにいっぱい愛情かけてもらったから、なくなると生きられないわ」

「つらいけど、一緒に乗り越えようね、お母さん応援してるから」

「お母さんとまた旅行したかったな…」

「んねー、⚪︎⚪︎ちゃんと旅行なんて楽しいだろうねー」

「なんでこんなに早くお母さんとお別れしなくちゃいけないんだ。全然納得できない。こんな現実認めたくない。もう苦しくて苦しくてたまらない」

「お母さんのこと、そんなに思ってくれてありがとうね」

「お母さんを抱きしめたい」

「ちっちゃい時いっぱい抱きしめたしょー」

「お母さんのこと、ずっと大好きなのに、会えないなんて、こんな苦しみを味わうくらいなら死んだほうがマシだよ」

「あなたにはまだまだやることがあるんだから、そんなこと言っちゃいけません」

「残されたものはつらいんだわ、もう希望がなにひとつないんだから」

「それはお母さんもそうだー。どうやったって⚪︎⚪︎ちゃんにもうご飯作ってあげられないんだから」

「お母さんのご飯、食べたいよー」

「ねー、またみんなで一緒に食べたいよねー」

「ホントもう、お母さん早すぎるって。あと20年生きなきゃだめでしょうに」

「ホントさ、あと20年くらい生きるつもりだったんだけどねぇ」

「やっぱダメだわ。なーんにもやる気ない。とにかくお母さんが大好きすぎるんだ」

「本当に、つらいのはわかるよー。⚪︎⚪︎ちゃんはね、もうちょっと人生の勉強もした方がいいね。本を読んで、色んな考え方に触れると、こんな時にこういう考え方もできるかって思う時もあるから」

「わかるけどいまつらいのはどうしようもないんだよね…」

「お母さんは⚪︎⚪︎ちゃんの応援団だから、ね?」

「お母さんをもっと大事にすればよかった!!!」

「なーんもう。大丈夫だって、十分大事にしてくれたから」

「お母さんを取り戻したい。誰だ、お母さんを連れて行ったのは」

「ほら、今日ももう疲れてるんだからゆっくり休みなさい」

「うん…」

「なんぼでも電話で話そうね。ほら、風邪気味なんだから早く寝なさい」

「うん…寝るけど、悲しい」