「もしもし?」
「はぁい。もしもしー」
「お母さん大好き」
「あら、ありがとー。今日はそっちは雨すごいしょ?」
「うん。ザーザー降りだわ」
「ちゃんと食べるもの買ってあるかい?」
「あるよ、鶏肉茹でて鍋にしてもいいし、ふるさと納税で届いたジンギスカンにしてもいいし」
「野菜も食べるんだよ」
「もちろん。かぼちゃとか人参とかキャベツとかあるよ」
「そうだ、健康は大事だからねー」
「でもさ、お母さんがいないのに健康になってもなんの意味があるんだろ、って思うよ」
「あら、なんでさ。お母さんはお母さん、⚪︎⚪︎ちゃんは⚪︎⚪︎ちゃんでしょう?」
「だって、元気な姿をお母さんに見せられないんだよ、この先ずっと。生き甲斐が何もないよ」
「なーに言ってんの。あなたはまだまだこれからでしょ」
「まだまだこれからなのに、お母さんがいないから頑張れない」
「⚪︎⚪︎ちゃんはね、お母さんがいなくてもちゃんとひとりで頑張ってたじゃない。
論文だってねぇ、外国の雑誌に載ったっていってたし、お母さん、いつもそれを聞いて嬉しかったよ」
「お母さんが電話で励ましてくれたから頑張れたことばかりなんだ。
もう本当になんで、お母さんがいなくならなくちゃいけないのか意味がわからないよ」
「ねー。こんな怖い病気があるなんて知らなかったね」
「立ち直れないよ」
「ホントさ、お母さんもやりたいこといっぱいあったのに」
「先週遺品整理したらね、部屋から使ってない毛糸とか着てない服とかいっぱい出てきたよ」
「そりゃそうさ、死ぬつもりなんてさらさらなかったんだから。
テレビも録画して観てないのあるし、あんた代わりに見たら?感動するから」
「それはいいわ。家を出る時に置いて行った服がそのまま吊るしてあったりもしたよ。
お母さんに買ってもらった服もあるんだろうなぁ」
「親は子どもの成長が1番の喜びだからね、子どもの服はなかなか捨てられなかったわ」
「本当にもうお母さんがいないと、家から明かりが消えちゃったんだ」
「母の存在はどこの家でも大きいっていうからね」
「こんなにつらいの、どうやって耐えたらいいんだろ。苦しすぎる」
「ごめんねー、お母さんも、まだまだ⚪︎⚪︎にいっぱいやってあげたいことがあったんだー」
「お母さんと話してるといつも楽しかった。いつも幸せだった」
「そうだねー。ずっと続けたかったよね」
「お母さんがいない世界はすごく怖い」
「どこが怖い?」
「喜びがないから」
「そんな…大丈夫だー、今に出てくるさ」
「出てきてほしくない。お母さんがいなくても大丈夫、って思いたくない」
「なかなかねー、すぐには無理だよね。」
「ごめんお母さん、なんか急に睡魔が襲ってきた」
「疲れてるんだー。寝な寝な。じゃあね、おやすみー」