眠る君の心に2

心に光を灯すものよ…。我が声に耳を傾けよ。なぜお前はその地で眠る?


あなたは何者ですか?


かつてのお前を知るものだ。いま一度問う。なぜお前はその地で眠る?


私の心にもう夢はありません。生きてゆく希望もありません。
あるのはただ, 叶わぬ夢への未練と幻想のみなのです。
私は, それらを断ち切るまでこの地で眠り続けなければなりません。


それはお前の心が望んだ事か?


いいえ。それに, 私の心はもう何も望む事ができません。
いま何かを望めば, それは叶わぬ願いとなってしまいます。



何も望む事ができない…そう思い込んではいないか?


わかりません。とにかく私は夢を捨てなければいけません。
その手段を…こうして眠りに着く事以外に思い付く事ができません。


幻想のために…生きてはみないか?


幻想のために生きる?


そうだ。目の前の現実から目を逸らし, 幻想のために心を使うのだ。


そんなことはあってはなりません。目の前の現実から目を逸らす事などあってはなりません。


なぜそう言い切れる?


…。


幻想という言葉の響きを恐れてはいないか?


はい。私は幻想が怖くて仕方がありません。
現実に反する夢を抱いてしまう事が怖くて仕方がありません。
だからこそ, 私は幻想と共に私自身をこの地に封じているのです。
心の中に闇を生む事がないよう, 私をこの地に封じているのです。


私はお前の望みを知っている。
心に夢を描き, その夢のために持てる力のすべてを使い,
惜しみのない努力をしたいだろう?


はい。私は, 正しき夢のためにどんなことにも立ち向かってゆきたいのです。
ただ, 私の夢は消さなければならないものとなってしまいました。


闇を恐れるな。お前の長き戦いは, 夢に支えられていた。
その夢が崩れ去り, お前は目標を失った。
しかし, 目標がなければ前に進まないのがお前のやり方かな?
何か行動に移すべきだとは思わないかね?


私にどこへ向かえというのですか? 
夢がなければ進むべき方向も私にはわかりません。


幻想だ。


それは正しき夢ではないと何度も…


それはわかっている。しかし, 力を付けるのだ。
未だ知らぬ新たな夢のために力を付けるのだ。
この地で思い出を振り返り, 新たな目標が決まるその時まで眠り続け,
目覚めた時に, お前の心は今ほどの輝きを放つ事ができるだろうか。
友の優しさにすがり, 眠る時間が長ければ長いほど, お前の力は薄れてゆく。
例え幻想であっても, 力を付けるために目を覚ましてみようとは思わないかね?


私にはどうすればいいのかわかりません。もう少し時間を下さい。
私はいま, 叶わなかった夢のひとつひとつを胸に刻み込みたいのです。
この夢のために過ごした日々を振り返りたいのです。


わかった。それもまたひとつの正解かも知れぬ。
だが, 考えるのだ。目を覚ます道を選ぶ事を。
お前には力の限り生きて欲しい。それは私の願いだ。


考えてみます。




如何でしたか?


うむ。ヤツの心は悲しみに満ちている。
思い出を振り返り, 夢のために努力を続けてきたことに意味を見出す段階にまで行き届いてはいない。
たった1つの目標のためにあらゆる困難を乗り越えてくる事ができたが故に,
彼の望みが叶わず, 夢を捨てなければならなくなった事への悲しみが深いのだろう。


これからどうなると思われますか?


それはわからぬ。ヤツ自身の心が決めなければならぬ事だ。
ヤツの心が我々の計画通りに動くものとなるかはまだ判断できん。