眠る君の心に3

あの夢に出会えて, 本当に良かった…。
ただ俺は, やはりその夢を叶えたかった。
頑張る事ならいくらでもできるのに, 頑張ってはいけないという事は,
こんなにも苦しい事なんだな…。
頑張っては…いけない。頑張っては…いけない。なんということだ。


もしもし?


今度は誰だ?


私。覚えてない?


君は…。


そう, 私。ねぇ, すごく久しぶりだよね! …最近, どうしてた?


別に, 何も。


ウソ。なんでウソつくの?


説明すると長くなるからな。


大丈夫。時間,あるから。話したい事があったら全部話してよ。っていうか, 実は全部聞いちゃった。


ああ, そう。


嫌な顔, しないんだね。


しかめ面を見に来たのか?


もう。そんなんじゃないよ。…ねぇ? 夢の続きを見てみない?


夢の…続き?


そう。夢の続き。


誰がどんな説明をしたんだよ…。何か勘違いしてるぞ。


勘違いなんかじゃないよ。…。夢, 叶わなかったんでしょ?


ああ, 俺の夢は叶わなかった。そしてこれからもその夢が叶う事がない。
だからその夢を捨てなければならないんだ。


捨てないで, その夢の続きを見てみない?


夢の…続き…。ダメだ。叶わなくなった夢に続きはない。
あるとすればそれは, 未練が作り出した幻想の世界。現実に反する夢を見ることは心に闇を生む。
数日前, 「幻想のために生きてはみないか」と言ってきたヤツがいた。
幻想であっても, 新たな夢が生まれるその日を信じて, 力を備えておく事を勧められた。
しかし, やはり俺は幻想のために生きることはできないよ。
それとも君は, かつての俺が幻想のために生きていたその過ちを再び繰り返せとでも言うのかい?


うーん。どうしてそうなっちゃうのかな。あのね。夢の続きは, 幻想ばかりじゃないよ?


叶わなかった夢に, 未来があるとでも?


私は, あると思う。だって, 夢が叶わなかった世界が現実なんだもの。


君は, 夢が叶ったら次はもっと素敵な夢が見られるって嬉しそうに話をしていたよね?
嬉しそうに話して, 次々と夢を見つけて, そして叶えてきた。


それは, 大きな夢に支えられていたから…。
いつの日かその夢が叶う事を信じて,そのためだけに前に進んできた。
その夢がすべての原動力だったんだ。


つまり, 一番大切な夢…だったんだよね?


そう。一番大切な夢だった。


じゃあ, 叶わなくなってしまった今も, その夢のことを大切にしてみない?
達成できた夢よりも大切な…一番に大切な夢だったんだから,
叶わなくなってしまっても,一番大切なまま心の中にしまっておこうよ。
夢が叶わなかったからその夢を捨てちゃうんじゃなくて,
夢が叶わなかった現実をどれだけ輝いて生きられるか試してみない?


夢が叶わなかった現実を輝いて生きる…。


とても難しい事かもしれない。だから, まずは,
「その夢があったから, ここまで来れた。一生懸命頑張れた。ありがとう。ありがとう。」って
何度も心の中でつぶやくの。そしたらきっと, 悲しい気持ちじゃない, 別の気持ちになって, 少し元気が出ると思う。
あなたには, 夢が叶わなくても, キラキラ輝いてる人になって欲しいなぁって, そんなふうに思います。


それが夢の続き…。叶わなかった夢の続き…。叶わなくてもその現実を輝いて生きる。


それともうひとつ。夢が叶わなかったからって, 悪い事をしたような気にならないで。


…。


そう…思ってたでしょ?


言われてみれば, そうかもしれない。
俺は,夢が叶わなかったことに対する自分への怒りのためか
俺自身に苦しみを与えたいと考えている面が確かにある。
俺は, 俺自身が許せないのかもしれない。


努力が足りなかったんじゃないかとか, そのことで誰かに迷惑かけたんじゃないかとか,
落ち込んでいるとそんなふうに自分を責めるようなことを考えちゃう時もあるよね。
でも, そういうふうに考えたりしなくていいの。
今回の事は,誰も悪くないんだもの。
誰も悪くない。それなのに,あなたは悲しまなければならなくなった。そういうことなの。


どうしてわかるんだ? 俺が気付くよりも前に君が俺の心の事に気が付くなんて…。


うーん。あなたの気持ちを考えたら, なんとなく…ね。
あなたは責任を持ってあなたの夢をここまで導いたんだから, 普通にしていればいいんだよ。
これまで通りのあなたでいればいいんだよ。


そんなことは全く考える事ができなかった。


これからはそうしてみて。いい? 主人公はあなたなの。
夢が叶わなかった世界から主人公までいなくなってしまったら, その物語は本当にお終いね。
でも, 夢が叶わなかった世界を輝いて生きている主人公がいたら, 物語はどこまでも続いていくの。
これまでのこと…全部受け止めて, あなたの物語を再び輝かせて。


俺にそんなことができるかな。


私には未来の事はわからない。だから「できるよ!」なんて無責任な事は言わないよ。
でも「やってみる事」ならできる。何がどうなっていくかは全部これからのあなた次第なんじゃないかな。


叶わなかった夢の続きを輝いて生きていこうとやってみる事ならできる…か。
ありがとう。君にはまたこうして支えられてしまった。


お役に立てたのでしたら, 私はとっても嬉しいです。それじゃあ私, そろそろ行くね。


ああ。君も幸せになるといいな。


あっ! いま, 「君も」って言ったよね。それは「あなたも」って意味だよね!


ああ。君も, 俺も。君とは別々の世界を生きているから, こうして会えることはめったにない。
それなのに助言をくれてありがとう。4年ぶりに会えて良かったよ。
俺も頑張ってみる。それじゃあ元気でな。