分度器とものさし

内積空間はノルム空間です。しかしノルム空間は必ずしも内積空間ではありません。


内積空間というのは分度器を搭載した空間で,
ノルム空間というのはものさしを搭載した空間というとわかりやすいかな,と思ったのですが,
内積空間はノルム空間である」という事実は,
「分度器はものさしの役割も果たす」というふうに聞こえなくもありません。
でもそれはヘンですね。数ベクトル空間の例で考えると
2つのベクトルの内積は,角度も必要ですがベクトル自身の大きさも必要としているので,
内積空間は分度器を搭載した空間と言ってしまうと語弊があるんでしょう。


ということは,内積空間は「分度器とものさしを搭載した空間」で
ノルム空間は「ものさし(だけ)を搭載した空間」と説明すると違いが伝わりやすいのかもしれません。
ノルム空間はときどき内積空間になることもあるので(中線定理を満たせばよい)
ものさしから分度器が作れますというのはちょっと面白いですね。いまさらですが。


「搭載した」という言葉では伝わりにくいかもしれないので,
内積空間は「分度器とものさしを使ってベクトルの長さや成す角度を測れる空間」
と言えばいいのかもしれません。抽象的な線形代数がどのくらい伝わっているのか気になるので,
今年は分度器とかものさしという言葉を使ってイメージをとらえやすくできればと思いました。



ところで,「中線定理を満たせばノルム空間は内積空間になる」という表現がちょっと嫌いです。
「〜定理を満たせば」というのが気になって,「定理なのに成り立つ時と成り立たない時があるのか?」
と思ってしまうからです。「中線定理の中に出てくる等式を満たせば」という意味なのですが,
表現を変えた方がいいんじゃないかと思っています。