ブラウンの手紙1

親愛なるハイネ・ジュリアノール君


すまないジュリア。あのあと僕はある研究集会に参加をしていてね。
しばらく研究室を留守にしてしまったおかげで
君の手紙を読むのが少し遅れてしまった。
君が大切に育ててくれていたアクレイギアの花は
今日も綺麗に咲いているのが僕の研究室から見えているよ。
まるで君が戻るのを待ち続けているように見えてしまうくらいだ。


しかし, この花の言葉とは裏腹に, 君はいま何かに夢中になる事はできないという事のようだね。
一刻も早く気持ちの整理をつけて前に進みたいという気持ちが十分に伝わってくる手紙だったよ。
実は, その点に関しては僕も君と同じ気持ちでいるんだ。
ただ, 君と僕の間には根本的なところで考え方の相違点がある。
僕はとことんまでこの夢の結末に向き合ってみるつもりなんだ。
それに, 実際はこの夢はまだ結末を迎えていないのだからね。
つまり, ジュリア。まだ謎は僕達の目の前に残されたままなんだよ。
謎がある限り, 真実もまたそこにあるというわけだ。
僕はこの謎を解かなければならない。新しい夢を見つけるためにもね。


この夢は, ある意味では結末を迎えているけれど,
またある意味ではまだ結末を迎えていない。
そのために話をまとめる事が難しくなってしまっているんだ。
もちろん, 君がこの夢はもう終わってしまったと考えるのなら,
僕はその考え方を否定するつもりはないよ。
でも僕は最後までこの夢に向き合い,
夢が本当に結末を迎える瞬間をこの目で確かめたいと思っている。
一番大切な夢だったのだからね。


僕は旅先で, 僕達はこれまでに「諦める」という方法を
あまりに知らなさすぎだったのではないかと考えていた。
そして, 突きつけられた現実の痛みは, 僕達の想像をはるかに超えていたね。
君も実際にこれほどまでのものとは考えていなかっただろう?
僕は, 最後まで夢を, 叶わなくなった夢を大切にする道を選んだけれど,
やはりその方法を見つけるのは難しい事のようだね。

ただ僕は, いまひとつの解決方法を見つけた気がしているから,
しばらくはその方法を信じてみるつもりでいるよ。
「頑張りたい」けれど「頑張ってはいけない」という
彼の中にある気持ちのぶつかり合いは,
いまどうやら止まったように思えるんだ。
少なくともいま彼の中に「頑張ってはいけない」という気持ちはひとかけらも存在していない。
できる限り気持ちを高めて最後の最後まで一生懸命に頑張る事で
これまでで一番に素敵な思い出というものを新たに作り上げようとしている。
素晴らしい結末を迎えるためには, これからの頑張りが何よりも大切だと考えているよ。


さて, 君はいまどうして過ごしているのかな。
君の神様が再び君に微笑みかけるのを信じているよ。


ファイン・ブラウン