存在の揺らぎ

俺には,サミアを守りたいという強い意志があった。
サミアを守るためには,俺は強くなる必要があった。
強くなりサミアを守るための困難ならば,
どんなことでも乗り越えていくと決めていたし,
それは実際に様々な困難に打ち勝つ力となった。
俺は今も,サミアを守るという夢を失った今でも,
サミアを守るために【強くなる事】に対してわずかな希望を抱き,
「叶わなかった夢が何よりも大切な夢だったのなら,夢が叶わなかった現実も輝いて生きるべきだ」
という彼女の助言に対する答えを見出した気になっていた。


しかし,そのわずかな希望には,やはり明確な目標がないのも事実。
サミアを守るために強くなる事が目標だが,実際にサミアを守ることはもう不可能な事なのだ。
その事実から永遠に目を逸らす事などできるはずがない。
いや,実際は可能かもしれないが,できるできないの問題ではなく,それで良いのだろうかとは考える。
ただ「強くなる」だけではなく,「サミアを守るために」という言葉を添えることで,
これまでの自分の夢がなんとなく消えずに続いているような,そんな気分に俺は甘えている。


そのことがやはり原因となって,あれから何度か,俺を消そうとする者達が現れた。
しかし,「サミアの守り」を胸に秘めた俺は戦いに敗れる事など決してありはしない。
だが,本当にこのままで良いのだろうか。俺は心にとってどのような存在なのだろうか。